黒崎播磨25年シーズン注目選手たち第2回《ルーキー2選手》

 黒崎播磨に学生駅伝で大活躍した選手はいない。今年加わった2人もユニークな選手と言っていいだろう。小泉樹は法政大出身で箱根駅伝は4年時に2区を任された。チームのエースだったが10000mの自己記録は大学2年時の28分50秒64で、昨今の学生エースとしては物足りない。濱口直人は創価大出身。中距離が専門で学生三大駅伝(出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝)には一度も出場できなかった。学生時代の実績がない2人が、黒崎播磨でどんな成長を見せてくれるだろうか。

●常に自己記録に近いレベルで走る小泉

 黒崎播磨は大学時代の活躍がない選手でも大きく成長している。マラソンで2時間5分台の細谷恭平は、箱根駅伝5区と8区の区間3位が最高成績で、10000mは29分24秒20だった。2時間6分台の土井大輔は箱根駅伝7区区間5位、10000mは29分06秒65である。
小泉も先輩たちの成長と活躍を意識している。
「大学で活躍できなくても、黒崎播磨なら記録を伸ばしている選手が多いんです。特に法政大は、記録を出すためのトラックレースにはあまり出場しません。距離の練習が多く、実戦的な(スピードを上げる)練習が少ないということもあります」
法政大の先輩である土井と同様の成長が期待できそうだ。
学生時代の小泉が、まったく伸び悩んだわけではない。1年時の全日本大学駅伝3区で区間6位になり、名前のある選手たちと互角の走りを見せた。2、3年時は故障が多かったが、4年時は「ケガの原因は走りの、左右のバランスの悪さ。治療もしましたし補強や走るときの意識を変えた」ことで故障をしなくなった。
4年時の秋はハーフマラソンの自己記録を伸ばすことに焦点を絞り、11月の上尾ハーフで1時間02分13秒をマークした。「10000mでも28分30秒の力はあったと思います」と小泉。
4年時の箱根駅伝2区も、区間15位ではあったが1時間07分57秒で、決して悪い記録ではなかった。小泉の本来の力が発揮されるのはこれからだろう。
「自己記録を大きく更新するような走りはできませんが、常に自己記録に近いレベルでは走ることができました。黒崎播磨の練習はメリハリがあって、狙いも理解しやすいメニューです。それを実行するには頑張りが必要ですが、法政大の練習と黒崎播磨の練習で自分がどう変わっていくか、ワクワクしています」
1年目は記録面で「5000mで13分30秒前後、10000mで28分00秒前後、ハーフで1時間01分00秒前後」を目指す。ニューイヤー駅伝でも「主要区間以外なら区間賞を狙って、流れを変える走りをしたい」と意気込む。「2年目には初マラソンで、MGC(27年開催のロサンゼルス五輪最重要選考競技会)出場権を得たい」
4月には5000m3レースに出場。6日の九州実業団長距離記録会は13分54秒37の3位、12日の中国実業団長距離記録会は13分55秒38で2位、29日の織田記念B組は13分51秒90の3位。自己新だった織田記念のレース後に「練習で先輩に引っ張ってもらったからです。仕事はまだ慣れない部分が多いのですが、食事や睡眠に気をつけて、疲労がたまらないようにしています」と話した。
実業団の環境に適応した小泉は、6月まで連戦する中で「7月の日本選手権参加標準記録の13分38秒を切りたい」と話す。それを実現させたとき、学生時代の小泉を知る関係者を驚かせることができる。

●中距離で研いたスピードを生かす練習をしていく濱口

 濱口は創価大時代、800mと1500mでインカレに出場していた。創価大は近年戦力が充実していることもあり、学生駅伝には出場できなかったが、関東インカレ(2部)では両種目で2度入賞し、中距離ではしっかり実績を残していた。
しかし黒崎播磨はマラソン中心のチーム。
「田村友佑さんがトラックで活躍されているのは見ていましたが、まさか自分が入社できるとは思っていませんでした」
しかし入社したからには、「ニューイヤー駅伝で区間上位の走りをして優勝に貢献する」と駅伝での活躍を自身に課した。
「トラックも5000m、10000mと距離を伸ばし、学生時代は1500m専門だった選手でも戦える。それを証明したいと思っています」
相洋高(神奈川県)では駅伝でも、3年時に県大会初優勝に貢献した。担当したのは距離が短い2区(3km)だったが、駅伝で勝つ雰囲気は理解できている。
「高校3年時は新型コロナで活動が制限されたシーズンでした。練習もままならない状況でしたが、3年生を中心に目標を見失わずに練習に取り組めたことが勝因だったと思います。区間賞はゼロでしたが、チーム全員で戦う意識を持てていました」
高校の1学年先輩に800mで高校記録(当時)を出したクレイ・アーロン竜波(テキサスA&M大)が、大学の2学年先輩に24年の日本選手権10000m優勝者の葛西潤(旭化成)がいた。クレイ・アーロンは19年のU18アジア選手権優勝者で、葛西は24年のパリ五輪20位の選手だ。
「高校大学と代表になる先輩を身近で見て、自分も大学、実業団と競技を続けて、どこまで上のレベルに行けるか、限界まで頑張りたくなったんです」
大学でも「駅伝出場を狙っていた」。3年時には箱根駅伝16人のエントリーメンバーには入っていた。9月に5000m(14分07秒01)、11月にハーフマラソン(1時間05分17秒)、12月に10000m(29分06秒15)と自己新を連発できたからだ。
「勢いだけでエントリーに入りましたが、箱根駅伝前の合宿でレベルの差を痛感させられました。4年時には9月の日本インカレ1500mで決勝進出を本気で狙っていたのに予選落ちしてしまい、それを駅伝シーズンまで引きずってしまいました。実業団ではそういった気持ちの弱さを克服して、1本ダメでも切り換えて、結果を安定して残す選手になりたいと思っています」
自身の武器であるラスト100mの強さを発揮するには、どうすればいいか。そこを軸に強化をしていけば、安定した走りができると考えている。
「1区でもアンカーでも、最後のスパートで勝負を決めます。そのためにはスタミナを付けて、2段階、3段階にスパートする選手に対応し、自分の得意な最後100mの勝負に持ち込みます」
黒崎播磨はどちらかというと、スタミナ系の練習が多い。「何度でも反復してスタミナを身につけます」と覚悟を決めている。
「黒崎播磨にとって新しいタイプ。そんな自分がチームに刺激を与える選手になれれば、ニューイヤー駅伝の優勝に近づくと思います」
18年アジア大会代表だった園田隼に始まり、黒崎播磨で育った日本トップレベルの選手たちは、常識外の成長を見せてきた。
2年前に入社した福谷颯太も、昨年入社の松並昂勢も、学生駅伝の活躍はないが黒崎播磨の戦力に育ってきた。小泉と濱口も、先輩たちの背中を追って成長する。
TEXT by 寺田 辰朗