黒崎播磨25年シーズン注目選手たち第1回《若手クインテット》
主要メンバーが自身の役割をしっかり果たすことで、黒崎播磨はチームとして成長してきた。ニューイヤー駅伝でいえば最長区間(23年までは4区、24年以降は2区)は細谷恭平、前半のスピード区間の3区は田村友佑、後半のスタミナ区間の5区は土井大輔と、主要区間で区間上位で走ってきた。しかしニューイヤー駅伝の目標である3位以内には、その3人に割って入る選手が、同等の力を持つ選手が台頭することが不可欠だろう。
大卒入社3年目となる前田義弘、福谷颯太、井手翔琉に、2年目の松並昂勢、そして高卒入社6年目の田村友伸。現在23~24歳の5人に期待がかけられている。
●2年連続駅伝主要区間を任された福谷
5人の中では福谷が24年は5区、25年は3区と、ニューイヤー駅伝の主要区間をすでに2回走っている。
24年は新人ながら5区で区間12位。3位でタスキを受け、4位に踏みとどまった。7区に回った土井が区間2位と快走したことで、チームは4位と過去最高成績を収めた。
しかし25年は3区で、区間順位こそ前年と同じ12位だったが7位から10位に順位を落とした。4区のインターナショナル区間でシトニック・キプロノが7位にチームを浮上させたが、5区の前田も区間26位と振るわず、最終順位は14位に終わった。
しかし福谷の成長も垣間見られた部分もあった。12月下旬までは3区と5区の両方に出走の可能性があったが、特徴の異なる2区間への準備をしっかりと行っていた。
「練習メニューは変わりませんが、そこに自分の意図を入れて流れを作りました」
当初はスタミナが必要な5区を想定し、前回の後半で体が浮いてしまった反省から、「(距離を多く走るなどして)体が重いな、くらいの感じを作ってジョグを行った」という。
しかし12月中旬から、スピードが必要な3区の可能性が生じ始めた。「昨年の(田村)友佑さんの走りを見て、最初の5kmから速く入る準備をしました」。10kmのタイムトライアルなどを速いスピードで行い、ジョグの量を減らして動きにキレを出した。
前述のように25年は3区で区間12位。周りが日本トップのスピードランナー達が集結したことによる。タイプとしてはスタミナ型の福谷には、現時点では少し荷が重かった。
記録的には44分09秒と、想定に近いタイムを出すことに成功していた。駅伝として見たときに貢献したとは言いにくいが、福谷自身の成長は示していた。
●ルーキーイヤーで実業団選手としての強さを身につけた松並
25年のニューイヤー駅伝1区を任されたのはルーキーの松並昂勢だった。大学時代は故障続きだったため、4区(8.0875km)区間賞を獲得した全国高校駅伝以来、5年ぶりのメジャー駅伝だった。区間賞から19秒差でタスキをつないだことで、「今の力は出せた」と澁谷監督からも合格点を付けてもらえた。
個人種目でも24年シーズンに1500m、5000m、10000m、ハーフマラソンと全て自己新を出した。
「入社後は、体調不良やケガで練習を離脱したことが一度もありません。黒崎播磨の練習はメリハリを自分で考えて付けられますし、体のメンテナンスも専属トレーナーがいるので週2回できます。体の状態が自分でわかるようになりました」
25年に入ってハーフマラソンを、1月に1時間02分49秒、2月に1時間01分12秒(チーム歴代5位)、3月に1時間02分57秒と3連戦した。
「マラソンを来シーズン走りたいので、ハードめのスケジュールを組んでも崩れないようにするのが目的でした」
ニューイヤー駅伝1区の走りを見た澁谷明憲監督は、「スピードに対応できる。1区の戦力になる」と評価した。松並自身は「3区を走れるくらいになりたい。トラックより自信があるので区間5位以内で走りたい」と目標を高く設定している。
福谷も松並も25年度のマラソンで、27年開催のMGC(マラソン・グランドチャンピオンシップ。28年ロサンゼルス五輪代表最重要選考会)の出場資格を取るつもりでいる。
●同世代の選手が5人いることの相乗効果
全員が順調というわけではない。
井手は入社後2シーズン、ニューイヤー駅伝も九州実業団駅伝も出場することができていない。入社時から「時間がかかる」(澁谷監督)と見られていただけに、3シーズン目となる25年からが勝負となる。
前田義弘は25年のニューイヤー駅伝で、前述のように5区に抜擢されたが区間26位。チームが上位に入るための流れは、5区で途切れてしまった。
田村友伸は24年こそ、ニューイヤー駅伝6区で区間17位だったものの、7区へは5位でタスキリレーし、上位の流れを途切れさせなかった。だが25年は同じ6区でも区間23位。タスキを受け取ったのは10位だったが、入賞(8位以内)への流れを作れなかった。
「練習の中でも良いときと悪いときの波が大きいので、多少きつくても消化できる力を付けていきたい。入社当初は先輩選手たちと年齢も離れていましたが、1学年上の3人と同学年の松並が入り、練習でも強いし試合でも結果を出しています。10000mの27分台も視野に入れるくらい、意識を高く持ってやっていかないと後がありません」
友伸は田村友佑の弟で、素材としては高い評価があるが、それに甘えず危機感を持って25年シーズンに臨む。
前田は自身の練習を「量は走っていましたが、メリハリを付けられなかった」と反省する。「試合に結びつくような練習をしないといけないと、理解できましたし、考えすぎて心に元気がなかった。気持ちの面の重要さもわかってきました」
同世代の選手が5人いることで、相乗効果も期待できる。このメンバーに負けたらチーム内で生き残れない、という競争意識につながる。その一方で「福谷がぼそっと良いことを言って参考になる」(前田)など、お互いの走りで気がついたことを話し合うこともある。
福谷と松並が一歩リードしているが、5人の切磋琢磨から主力に成長する選手が現れれば、黒崎播磨はチームとして厚みを増す。
TEXT by 寺田 辰朗