黒崎播磨のアスリートたち 第5回《小田部真也》

競技力ではチームの中堅ポジションだが、23歳の小田部が黒崎播磨に欠かせない存在になりつつある。2年前のニューイヤー駅伝(全日本実業団対抗駅伝)は6区で区間24位。2年ぶりに出場した今年は1区を任され、区間28位ではあったがチームの過去最高順位タイ(6位)に貢献した。小田部の特徴はスピードで、1500mが本職というわけではないが、今年5月に3分48秒10のチーム歴代3位で走っている。持久型の選手が多い黒崎播磨では、スピードを生かした役割が期待できそうだ。

 

●動画も活用する小田部のスピード練習とは?

小田部は自身の21年シーズンを「スピード面でしっかり結果を出せた」と振り返る。5000mのタイムは20年の14分10秒99から21年の13分53秒94へ。10000mも30分06秒46から29分02秒08へ。トップレベルとはまだ差があるが、スピードランナーとして頑張って行ける手応えを練習では感じている。
「ラスト1000mを2分40秒台に上げることが、5000mの自己新につながりました。そこが今までのトラックレースと違いましたね。5000mの13分台を狙う練習も余裕を持ってできて、距離走も以前と同じ感じで継続できました。1500mや3000mのレースにも積極的に出場して、そうした積み重ねで地力が上がったのだと思います」
質の高い練習の一例を見学できた。トラックのエースである田村友佑を含む7人が、300 m×10本を2セット行ったが、2セット目は小田部が引っ張り続けた。どういう部分を意識して行ったのか。
「自分の動きを先頭で感じることが目的でした。1セット目は中島(阿廉)たちに引っ張ってもらって、それに合わせるなかで自分の動きを固めます。そのリズムをうまく2セット目につなげて、自分が先頭を走ったときにスピードを生かした動きができているかを意識しながら走りました。昨年からポイント練習の動画もスタッフに撮ってもらっているので、練習後にLineで共有して、自分の動きがどうなのか、変化しているのかを確認しています」
小田部は地面を蹴った脚が横に流れるクセがあり、その動きの修正も動画を参考にしている。選手個々に、自身の走りをチェックする独自の視点があるが、練習動画を撮影するようになったのはチーム全体でも、厚底シューズへ対応する必要があったからだ。
澁谷明憲監督は、以前は「選手の走りに合ったシューズを選ぶべき」と考えていたが、シューズの機能向上は著しく、今は「最新シューズをいかに活用するか」に取り組んでいる。「地面の反発を効率よくランニングに生かすために、どういった接地の仕方がいいか、などを動画を参考に考えています」
シューズの進化を考えると小田部の13分53秒94は、まだまだといったレベルだ。澁谷監督は「13分40秒台、30秒台と記録を伸ばせる選手」と期待している。

●スピードランナーの真価を駅伝でも

駅伝での活躍はいまひとつの小田部。22年元旦のニューイヤー駅伝では、前述のように1区で区間28位だった。区間1位とは44秒、入賞ラインの8位とは31秒差で、先頭集団は肉眼で見える距離である。チームは過去最高順位タイの6位入賞を果たしたのだから、ぎりぎり合格点をつけられる走りだった。
だが6位入賞は、エース2人の連続区間新の快走が原動力だった。田村友佑が3区で区間4位の15人抜き、細谷恭平が4区区間賞で8人抜きを見せ、4区終了時点で2位まで進出した。5区の土井大輔は2人に抜かれたが、区間4位で粘った。
「自分が頑張れば入賞できるチームの立ち位置は理解していました」と小田部。「3人がいてくれたので1区のプレッシャーは小さかったです。しかし来年以降は、3人に今年の走りを期待するより、他の区間がもっと頑張ることが重要です。自分が秒差でつなぐ走りができるようになれば優勝争いに加わる展開ができます」
澁谷監督は小田部の走りについて「ただ走っただけ」と厳しい評価だが、それだけチームとしての目標が高くなっている。客観的に見れば1区も、3~5区に劣らずトップレベルの選手が出場する区間で、今年は10000mの27分台ランナーが4人も出場していた。小田部が区間賞と44秒差にとどめたのは、10000mの自己記録で1分20秒くらい差があることを考えれば、健闘という見方もできる。
小田部は福岡県の東海大附属福岡高出身で、同高が福岡県高校駅伝31連勝中の大牟田高を破り、全国高校駅伝に初出場をしたときのエースだった。福岡県大会1区の小田部は区間3位だったが100 m程度の差でつなぎ、3~5区の連続区間賞でチームは優勝した。
今年のニューイヤー駅伝も1区の小田部が前を追える位置でタスキをつなぎ、3~5区の入賞を決める区間につなげていった。澁谷監督も「意外に運を持っている選手」と認める存在だ。
小田部が任される区間は1区とは限らない。2年前と同じ6区は近年、ニューイヤー駅伝の勝敗が決まることが多い。1区と同じスピード区間である3区の選手に故障などがあれば、小田部に出番が回ってくる。5000mで13分30秒台を出せば、十分その任に耐えられる。
黒崎播磨が6位より上を目指すときも、そしてチームが窮地に陥ったときも、小田部がスピードランナーの真価を発揮することが求められる。 TEXT by 寺田 辰朗

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