黒崎播磨のアスリートたち 第4回《田村友伸》

田村友伸は田村3兄弟(長兄・和希=住友電工、次兄・友佑=黒崎播磨)の末弟として注目されているが、まだ兄2人との差は大きい。昨年11月に初の九州実業団駅伝出場を果たし(4区区間5位)、5000mと10000mでも自己新を連発したが、ニューイヤー駅伝はメンバー入りできなかった。しかしこの夏に成長を見せ、冬の駅伝では重要な役割を果たす期待もある。

 

●成長が最も遅い田村3兄弟の末弟

田村3兄弟が注目されたのは5年前の17年1月、全国都道府県対抗男子駅伝で山口県チームの1~3区を、友佑・友伸・和希でタスキをつないだときだった。1区が高校生区間、2区が中学生区間、3区が一般区間で3人は高校3年、中学3年、大学3年と絶妙のタイミングだった。3兄弟とはいえ世間の関心は、正月に箱根駅伝3連勝を達成した青学大メンバーの和希に集まっていた(1、2年時に4区で連続区間賞。卒業2年目の19年日本選手権10000m優勝。20年に27分28秒92の日本歴代4位)。
だが当時中学3年だった友伸も3000mの自己記録が8分36秒72で、3兄弟の中学時代の記録では一番良かった。周囲の期待も集まりやすい“有名選手の弟”というポジションだが、その後の友伸は成長が鈍る。高校時代の5000m最高タイムは2年時の14分37秒92で、個人では全国大会に進めなかった。黒崎播磨に入社した1年目(20年)も5000mは15分00秒28、10000mは31分07秒83と低迷した。
低迷の理由を友伸は次のように自己分析している。
「高校時代は単純に、体を作ることができませんでした。入社1年目は故障と貧血で、半分以上チームの練習に参加できなかったです。昨年は4月から故障も貧血もなく、陸上競技を始めて初めて、1シーズン練習が継続できました。11月の自己新は練習を続けられたから出せたのだと思います」
しかし肝心の12月に調子を崩し、ニューイヤー駅伝選考を兼ねた練習で結果を残せなかった。11月の自己新記録も、兄2人の高卒2年目と比べると低い。10000mでいえば友伸が29分19秒24なのに対し、和希は28分46秒81、友佑は28分31秒06だった。ちなみに現時点の兄2人の自己記録は和希27分28秒92と友佑27分48秒42で、兄弟2人の合計タイムでは日本歴代2番目である。
友伸にとっては兄と自身を比べるより前に、自己記録を伸ばせないことや勝負どころで負けてしまうことが目の前の課題だった。

●黒崎播磨のトレーニングや先輩から何を学べるか

友伸は「自分の一番の課題」を次のように自覚している。
「1年目は故障や貧血もありましたが、自分の体と相談して練習を組み立てることができませんでした。その時期のメニューの意図をしっかり理解して、ポイント練習に合わせる状態を作らないといけないのですが、それができなかった。時には疲れが溜まっていても頑張るべきメニューもあるのですが、練習をやり過ぎてしまうことが多く、故障や貧血につながりました」
1年間チームの先輩の練習の仕方を観察し、兄の友佑や先輩たちに時には質問もした。澁谷明憲監督から故障の間に、一緒に練習しているときとは違った視点でしっかり見て学ぶように言われていたのだ。
「チームの3本柱(細谷恭平、土井大輔、田村友佑)の方たちはやはり、練習の狙いを明確に理解して、そのためにやるべきことを、自分の考えを持ってやられているように感じました」
2年目は友伸もそこの理解が進んだことと、「練習を積めて体ができてきた」ことで11月に好走を続けた。だが12月に調子を落としてしまったのは、ニューイヤー駅伝の選手選考を控えた時期に頑張りすぎてしまい、体調をコントロールできなかったのだろう。
「黒崎播磨の特徴は本来、速さと強さが比例して伸びることなんですが、自分はそれができませんでした。今後は全種目で自己新を出し続けることで、2~3年後には日本選手権を目指したい。チームの3本柱のレベルに加わり、将来的には勝てるようになりたいです」
1年目は無理な練習もして体調を整えられなかったが、2年目に改善して記録は伸ばした。だが中途半端な部分もあり、駅伝メンバーに入れない勝負弱さを露呈した。3年目の今季は黒崎播磨の練習を完全に理解して、駅伝でも結果を出すことが求められる。今年の夏合宿ではすでに、3本柱に食い下がる練習ができ始めているという。
澁谷監督は「ようやく体が変わってきて、質の高い練習に耐えられるようになりました。5kmのタイムトライアルでは5000mの自己記録を大きく上回って、13分56秒で走りました。8月の頭にはゆっくりですけど40km走もこなしています」
高卒3年目で10000mの28分台前半を出せば、兄2人と並ぶことになるのだが、澁谷監督は目先の結果にこだわらない方針だ。「駅伝でしっかり走ってくれたらいいですね」と、まずはニューイヤー駅伝デビューに重点を置く。兄弟タスキリレーという話題性よりも、チームの躍進に重要な役割を澁谷監督は期待している。 TEXT by 寺田 辰朗

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